バレンタインの憂鬱

一語100%
 ああ、まただ。またこの季節がやってきた。そう思いながら俺は家に帰った。
 何の季節かなんて言うまでも無い。2月の中旬。スーパーにはピンクのコーナーが出来て、女子高生を中心とした女性達がチョコを買いあさる、あの日だ。普段はお菓子を買いにスーパーに立ち寄ってもなんとも無いのに、この季節だけはチョコのコーナーに近寄りがたい。
 でもそれももう終わりだ。今日がその当日。恋に浮かれる女性の方々はチョコを配ればいい。モテない男は行動も出来ず、ひっそりとしているさ。そんなことを思いながら家に帰ると、母さんがチョコをくれた。うん。空しさをありがとう。

 部屋に入って買ってきたマンガ雑誌を読む。1時間ほどすると夕食の時間となり、家族で夕食を食べた。夕食を食べ、テレビを少し見てから風呂に入る。あとは宿題をしたり、ゲームをしたり。
 なにも変わりの無い、いつもの日のはずだった。

 夜10時。ケータイが突然鳴り響く。

 ゲームを一時中断し、ケータイを手にする。見慣れぬ電話番号だ。同じクラスの坂川さんだ。坂川さんとはクラス替えをしたときに番号を交換した――その番号の交換もその場の雰囲気でしただけだったので、とくに深い意味も無かった――だけで、それ以来電話したことも無かった。
 坂川さんの外見は飛び切りの美人というわけでもなく、かといって悪いわけでもなく。客観的な視点からすれば中の上だろう。おとなしすぎるわけでもなく、うるさ過ぎるわけでもない。まぁ、とにかく平凡な女子だ。今年の6月辺りまで俺が惚れていたってのを除けば。

 その坂川さんからの電話。ちょっと待て。タイミングとしては出来すぎてないか? バレンタインで誰からも貰えずに気が抜けて、一息ついた頃に電話。しかも昔惚れていた――告白もせず、それっぽい行動も起こさなかったのだけれど――相手から。まるでドラマというような展開だ。

「……もしもし」
「良かった、出てくれた。……あのさぁ、今ちょっと時間大丈夫?」

 来た。ここで焦っちゃだめだ。相手が俺に問いかけ、俺が答える。ちょっと余裕があるような雰囲気じゃないといけない。高まる鼓動を必死に抑える。

「ああ、大丈夫だよ」
「……あのさ、こーゆーのってさ……いきなり言われると戸惑うかもしれないんだけど……」

 口元が緩む。相手も心なしか緊張しているようで、言葉が途切れ途切れになる。あわてなーいあわてなーい、と心の中で言い聞かせた。

「冗談とかじゃなくて、真面目な話なんだけどさ」
「前置きはいいから、本題を言ってよ」

 やべ。焦った。急かさなきゃよかった。悟られないように、こっそり深呼吸。

「あ、ごめんね。実はさ。前から思ってたんだけどね……」

 さぁこい。こっちの返事は決まってる。間髪いれず『OK』だ。何をしてる。緊張してる場合じゃないだろ。さっさと続きを言え。ここまで来たら言うしかないでしょうが。大丈夫だから。さぁ、早く。


「ずっと前から、宮田君のことが好きだったのっ……!」


「……あのさ」
「なに?」
「番号間違えてない?」
「……うわ、マジ!? ゴメン! 忘れて!」
 切られた。


 翌日。「よぉ宮本。すっげぇ良い事あったんだけどさぁ」と言ってくる宮田に殺意を覚えたが、それは別の話。

2006/02/13


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