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ようやくこの日が来た。もちろんバレンタインデーのこと。私はこの日のために土日を使って頑張って手作りチョコを作った。 「わざわざ手作りじゃなくてもいいんじゃない?」 「お菓子メーカーに踊らされてるだけでしょ?」 「義理を送るのも面倒だし」 「ていうかあの人に贈るの?」 友達からのコメントは散々だった。せっかく初めて本命チョコを作るってのにそりゃあ無いと思うんだけど。でも贈ろうとする相手を考えたらこのコメントは妥当なのかもしれない。 私の贈ろうとしてる相手は隣のクラスの一番後ろに座っている長谷川くん。成績がいいというわけでもない、スポーツもそれほど得意じゃない、顔も……平凡。本当だったらサッカー部のキャプテンとか、クラス一の優等生とかに贈るのが筋かもしれない。でもしょうがない。私は平凡な彼に恋してしまったんだから。 3週間前。ちょうど休みが明けたばかりの頃。クラスで集めた大量の宿題を職員室に運ぶ途中に長谷川くんとすれ違った。「手伝おうか?」といいながら半分以上も持ってくれた。馬鹿みたいなことだけどそれがきっかけ。それからというもの、長谷川くんに恋してしまった。 廊下で顔を見るとその日一日が幸せに感じる。 視界に入るとつい目で追ってしまう。 今更ながら同じ部活に入ろうかとも思ってしまう。 告白するのは今じゃないと駄目。来年は受験生だから忙しくなって、それを理由に断られるかもしれない。そもそも来年じゃ残りの高校生活が短すぎる。だから今告白しないと駄目。幸いにも日本にはバレンタインと言うイベントがある。ただでさえ告白するのをためらってるような私にうってつけのイベントだ。せっかくだから便乗しないと一生後悔しそうな気がする。一生は言い過ぎでも、高校生活の間はずっと後悔しそう。 放課後。隣のクラスをこっそりと見ると彼はいつもの席に座っていた。多分宿題を提出してないから居残りさせられたんだと思う。周りには誰も居ない。残されてる彼には悪いけど、これは好都合だ。 今なら彼は宿題に集中している。こっそりと近づく。相手に気付かれないように。さりげなく。自然に。 あ。顔を上げた。気付かれた。 「長谷川君っ!」 声裏返った。恥ずかしい。顔が火照ってきた気がする。多分赤くなってるんだろうな。あ、長谷川君笑ってるし。逃げたい。でも逃げたら負けのような気がする。 「天馬さん……だっけ? どうしたの?」 「私の名前知っててくれたんだ。ありがと……」 「いや、よく廊下の前で友達と話してるじゃん。だから名前をちょこっと覚えてただけなんだけど」 「あ、そうなんだ……」 沈黙。どうしよう。気まずい。よく考えたら彼と話すことなんて滅多にないじゃん。天気の話でも……いや、ここで話しても膨らまない。芸能人……だめだ、彼の好きそうな芸能人が思いつかない。どうしよう。 「何か用事があったの?」 しまった。長い間沈黙――といっても数十秒だろうけど――してたから変に思われた。ここで嘘をついて逃げてしまおうか。でもせっかくここまで来たんだからチョコは渡したい。 けれど受け取ってくれるんだろうか。いきなり知らない人からチョコを貰っても大丈夫かな。「いきなり渡されても困る」と言って付き返してくるかもしれない。甘いものが嫌いかも……それはないか。前に饅頭を食べてるのを見たことあるし。仮に受け取ったとしても、そのあとに告白しても成功するかどうか。「よく知らないから無理」なんて言われるかもしれない。他に好きな人が居るかもしれない。 しまったー。他に好きな人が居るかどうか調べるの忘れてた。よく考えたらほかに好きな人が居る可能性とか高いじゃん。もしかしたら付き合ってる人が居るかもしれないし。失敗だー。でもここで「好きな人居る?」なんて聞けないし。聞いて「居る」なんて言われたら告白どころかチョコすら渡せないじゃん。 でもここで逃げるわけには行かない。ストレートに告白……? それは無理。じゃあさりげなく自然にチョコを渡すにはどうすればいいんだろう。 ……そうだ。チョコを作ったけど余ったってことにしよう。そしてたまたま残ってた長谷川君に渡すことにした。そうだ、その手があった。「チョコが余ったから渡そうと思った」って言えばいいんだ。さりげなく。かつ自然に。 「チョコを渡そうと思ってたんだ」 うわー、台無し。『余ってたから』って言うのを忘れてたー。まずい。ストレートすぎるよ。さっき以上に顔が赤くなってる気がする。どーしよう。ここまでストレートに言って「やっぱ止める」なんていえないし。長谷川君はきょとんとした顔してるし。 「えーと……僕に?」 もう話すことも出来ない。ひたすらうなずくしかない。話そうとしても喉が渇ききってる気がする。ここまで来たら引っ込みが付かない。私は後ろ手に持っていたチョコレートを恐る恐る差し出す。恥ずかしすぎて相手の顔も確認できない。 「うわー、マジで!? スッゴイ嬉しいんだけどー。ホント? ありがとー。大事に食べるよ」 顔を上げると照れながらも喜んでいる長谷川君が居た。良かった。さっきまでの心配が吹っ飛んだ。この様子だと多分付き合ってる人は居ないみたい。あと一押し。『付き合ってください』の一言で全てが終わる。良くも悪くも。ここまでストレートで来たんだ、最後もストレートに言えばいいだけ。 「お礼と言っちゃ何だけど」 え? ちょっと待って。なんでここでお礼を出そうとしてるの? ホワイトデーはあと1ヶ月あとでしょ。こんなの予定外だよ。ちょっと待って、なんでカバンの中をあさってるの。 「僕もチョコ作ったんだ。良かったら食べてよ」 ええーー!! 聞いてないよ。バレンタインって日本じゃ女の子が男の子にチョコをあげるんでしょ? なんで長谷川君だけ西洋風にチョコを交換しようとしてんの。しかもラッピングが上手だし。既製品じゃないの? 「今食べてもいい?」 「もちろん!」 開けてみる。文庫本ぐらいのサイズの箱にチョコレートが7つ。スッゴイ上手なつくりなんですけどー。既製品じゃないの? マジで作ったの? 一口食べてみると口の中に広がる甘くておいしい味。店で売ってるチョコと比較しても大差ないほどの高級感あふれる味わい。 「……おいしい……」 「よかったー。お菓子作るの好きでさー、バレンタインにはついいっぱい作って配りたくなるんだよねー」 負けた。 結局、このあとに告白は出来なかった。まさか相手が自分よりすごいチョコ作ってくるなんて。自分よりすごいチョコを見せられたんじゃあ告白なんて出来ないよ。 来年こそは……。 2005/02/13
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