電波な人

メニューに戻る サイトトップに戻る
電波とかキチガイとか。ネットをやるようになってからそういう単語をよく目にするようになった気がする。でも実際に見たことはないから実感が湧かなかった。



ある日、俺は行事のせいで一本早い列車に乗った。いつもよりも1時間も早いけれどそれでも座席が全て埋まるほどの乗車人数だ。俺は遅く乗り込んだ為、案の定座ることが出来なかった。しかたなく吊革につかまった。

目の前の座席には荷物がある。立たなくてはいけない人がいるほどの乗車率だったら隣の座席に置いていた荷物を自分の膝の上に置くことぐらいはするだろう。テレビに出るようなローカル線の4人掛け座席だったらともかく、東京の列車のような座席だ。一般的な人だったら人が座るスペースを空けることが普通だと思っていた。だが荷物の持ち主と思われる人は目の前に立っている高校生――俺のことだが――を気にもとめず、ペットボトルのお茶を飲みながらのうのうと旅行雑誌を読んでいる。

俺は荷物の前に立った。少しは気付いても良さそうなのに右斜め前に座っているその人は俺に気付きもしない。俺は諦めつつも「席を空けろ」オーラを出していた。



ただ突っ立っているのも暇なのでその人を観察していた。その人は何食わぬ顔で旅行雑誌を読みふけっている。顔を上げることもなく黙々と。そこまで旅行雑誌に魅力があるかどうかは定かではないが。いずれにしてもその人にしてみれば周りが見えなくなるほど興味深いものなのだろう。

当たり前だが本は読んでいると終わる。その人も本を読み終わり、本を閉じた。そして一息つくと。


「・・・でねー、髪の毛がボーンてなっててーこうすごいの!」


・・・ちょっと待て。その人は前述の通りそれまで雑誌を読みふけっていた。一体誰に話しているのだ。その人の前には誰もいない。反対側の人と話しているのかと思いきや反対側にいるのはお年寄り。こっちには全く気付いていない様子。

その後、すぐに再び同じ雑誌を読み始めた。しかし、前に人がいるかのように時々話し掛けている。決して独り言ではなく会話なのだ。更には歌まで歌い出す。その人にはおよそ似合わない「氷川きよし」をなかなかご機嫌そうに歌っている。



結局その人はたまに話し掛けながらもすぐに駅で降りた。しかも駅を降りた後も一人ではっきりと話していた。同じ駅で降りたのだが、公衆トイレに向かって一人で話していた。

俺はその時やっと理解した。



これが電波な人なのだ、と。

2003/06/06


メニューに戻る サイトトップに戻る inserted by FC2 system